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役員退職金の税務 – 適正な金額の算定と支給時期の留意点

はじめに

役員退職金は、長年にわたる功労に報いるための重要な制度であると同時に、税務上は最も慎重な検討が必要なテーマの一つです。法人側では損金算入の可否、個人側では退職所得控除と分離課税のメリット、双方の観点から論点を整理する必要があります。

本稿では、役員退職金における「適正な金額の算定」と「支給時期」について、実務上の留意点を整理します。

論点1:役員退職金の損金算入

役員退職金が法人税法上損金算入されるためには、「不相当に高額な部分」が含まれていないことが要件となります(法人税法第34条第2項、法人税法施行令第70条)。

功績倍率法による算定

実務上、役員退職金の適正額の算定には「功績倍率法」が広く用いられています。計算式は以下の通りです。

退職金 = 最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率

功績倍率は役職に応じて、代表取締役で2.5~3.0倍、専務取締役で2.0~2.5倍、常務取締役で1.5~2.0倍が一般的とされています。ただし、これは絶対的な基準ではなく、企業規模や業界、貢献度によって調整される性質のものです。

残波事件最高裁判決の影響

平成29年に出された残波事件最高裁判決(最高裁平成29年1月31日決定)は、役員退職金の適正額の判定について重要な示唆を与えました。

この判決では、類似法人の比較において、功績倍率の最高値ではなく平均値を採用することが合理的とされました。実務上、税務調査で「最高値ベースで算定したから問題ない」という主張は通りにくくなっています。

論点2:分掌変更と退職金

「実質的な退任ではない分掌変更」に対して退職金を支給した場合、損金算入が否認されるリスクがあります。法人税基本通達9-2-32では、以下の要件を満たす場合に分掌変更による退職金の損金算入が認められるとしています。

分掌変更の要件

  • 常勤役員が非常勤役員になったこと
  • 取締役が監査役になったこと
  • 分掌変更後の役員報酬がおおむね50%以上減少したこと

特に「報酬がおおむね50%以上減少」という要件は厳格に判定されます。退職金支給後も、実質的に経営に関与し、報酬の減少が形式的なものに過ぎない場合、退職金の損金算入は否認されます。

論点3:個人側の課税

役員退職金を受け取った個人側では、退職所得として分離課税の対象となります(所得税法第30条)。

退職所得控除の計算

退職所得控除は、勤続年数に応じて以下のように計算されます。

  • 勤続20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
  • 勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

退職金額から退職所得控除を引いた金額の「2分の1」が退職所得となり、給与所得などとは分離して課税されます。これにより、退職金は給与に比べて大幅に税負担が軽減されます。

勤続5年以下の特定役員等の特例

勤続5年以下の役員等の退職金については、上記の「2分の1課税」が適用されません(所得税法第30条第4項)。短期在任のまま高額の退職金を支給する場合は、税負担が大きくなる点に注意が必要です。

実務上の留意点

  • 功績倍率は、類似法人の平均値を参考に、業界・規模・貢献度を勘案して合理的に決定する
  • 退職金の支給決議は、株主総会または取締役会で正式に行い、議事録を残す
  • 分掌変更による退職金支給の場合、報酬の減少を実態として伴わせる
  • 退職金支給後は、実際に経営から退いていることを明確にする

塩野公認会計士事務所の見解

役員退職金は、創業者・経営者にとって長年の功労の結晶です。だからこそ、税務上の適正な処理を行うことで、不要なトラブルを避けることが重要です。

特に中小企業では、「退職金の金額を税理士に決めてもらった」というケースが多いですが、本来は経営判断として、創業者ご自身が方針を持って決定すべき事項です。当事務所では、創業者のお考えを伺った上で、税務上のリスクを最小化する形でのご提案を行っております。

※ 本記事は執筆時点の法令・通達等に基づき作成しております。最新の制度や個別事情により取扱いが異なる場合がありますので、実務への適用にあたっては最新情報をご確認ください。ご不明点があればお気軽にご相談ください。