【シリーズ】太陽光発電の行政手続きとフェーズ別の実務
- 【前編】改正行政書士法と新規認定申請
- 【中編】運転開始準備・期中運用
- 【後編】承継・卒FIT・事業廃止(本記事)
2026年1月1日に施行された改正行政書士法により、太陽光発電のFIT/FIP認定申請をめぐる実務では、外部の事業者が有償で申請書類を作成する場合の取扱いが、これまで以上に明確に意識されるようになりました。
本シリーズの後編にあたる本記事では、【フェーズ4】変動対応フェーズ(相続・売買・組織再編)、【フェーズ5】買取期間満了フェーズ(卒FIT・FIP移行)、【フェーズ6】事業廃止・設備撤去フェーズを取り上げ、最後にフェーズを横断した業務分担の整理を行います。
制度改正の背景と新規認定申請については前編を、運転開始準備と期中運用については中編をご参照ください。
前提:改正行政書士法のポイント
行政書士でない者が、他人の依頼を受け、いかなる名目であっても報酬を得て、業として官公署に提出する書類を作成することは、他の法律に別段の定めがある場合を除き、行政書士法違反となる可能性があります。違反した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があるほか、法人への両罰規定も整備されました。
なお、事業者本人が自ら作成する場合や、その法人の役員・従業員が自社のために作成する場合は、通常、「他人の依頼」に該当しません。
【フェーズ4】変動対応フェーズ ― 相続・売買・組織再編
運転中の太陽光発電事業について、事業者側の事情による大きな変動が生じた場合のフェーズです。相続、売買、法人の組織再編等が発生した場合、認定を承継するための特別な手続きが必要となります。
事業者変更は、原因によって一律の「名義変更届出」ではなく、変更認定申請または事後変更届出等に分類されます。
4-1. 承継の類型別の資源エネルギー庁への手続き
- 相続、事業譲渡、合併、会社分割その他の承継に伴う変更認定申請書または変更届出書、およびその添付書類
4-2. 相続による承継
発電事業者(個人)に相続が発生した場合の主な提出書類(承継届出の添付として)。
- 被相続人の戸除籍謄本(附票を含む)
- 法定相続人全員の戸籍謄本、または法務局発行の法定相続情報一覧図
- 法定相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書、または相続人全員の同意書
- 相続証明書
- 承継後の事業者による事業継続の意思・体制を示す書類
4-3. 売買・譲渡による承継
- 売買契約書または譲渡契約書
- 事業譲渡証明書
- 譲渡人・譲受人双方の印鑑証明書
- 譲受人の事業実施体制を示す書類
- 土地・建物使用承諾書
- 土地の権原に関する書類(所有権移転登記の登記簿謄本など)
4-4. 会社分割・合併・事業譲渡による変更
- 組織再編の内容を示す書類(分割計画書・合併契約書・事業譲渡契約書等)
- 組織再編後の法人の登記事項証明書
- 組織再編に伴う事業実施体制の変更を示す書類
- 株主総会議事録等(組織再編の類型による)
- 共有者・相続人等の同意書(必要な場合)
- 関係者間の確認書・誓約書
4-5. 離婚に伴う財産分与
- 財産分与契約書、調停調書、判決等の財産分与関連書類
4-6. このフェーズで行政書士業務に該当し得る手続き
フェーズ4は、行政書士業務が及ぶ範囲(官公署提出書類だけでなく、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類も含み得る)と、他士業の独占業務との棲み分けが特に重要となります。
行政書士業務に該当し得るもの
- 承継の類型別の変更認定申請書または変更届出書の作成、および申請手続の代理
- 事業譲渡証明書、相続証明書等の事実証明に関する書類の作成
- 共有者・相続人等の同意書、土地・建物使用承諾書等の権利義務に関する書類の作成(紛争性がない場合)
- 遺産分割協議書の作成:相続人間に紛争がなく権利義務に関する書類として作成する場合。紛争性がある場合や交渉が必要な場合は弁護士業務。
- 事業実施体制を示す書類、関係者間の確認書・誓約書の作成
他資格の業務との棲み分け(重要)
- 相続税・贈与税の申告書作成:税理士業務。
- 不動産の相続登記・所有権移転登記の申請、組織再編の登記申請:司法書士業務。
- 相続税・贈与税申告に係る財産評価および税務相談:税理士業務。
- 株式価値・事業価値の評価:公認会計士等の専門家が取り扱う領域。
- 不動産鑑定評価:不動産鑑定士業務。
- M&Aの仲介・FA業務:M&A仲介会社、FA、公認会計士等が関与する領域。
- 法律事務としての契約交渉、法的助言または紛争対応、紛争性のある契約書作成:弁護士業務。
- 組織再編の会社法手続そのもの:司法書士・弁護士等との連携が必要。
相続や組織再編を伴う太陽光発電の承継は、行政書士業務・税理士業務・司法書士業務・会計士業務が交錯するのが特徴です。複数の専門家を個別に手配すると、情報の分断や手続きの重複が発生しがちなため、複数資格を持つ事務所または連携体制のある事務所に一括してご相談いただくことが効率的です。
【フェーズ5】買取期間満了フェーズ ― 卒FIT・FIP移行
FIT/FIP買取期間の満了が近づいてから、満了後の売電先の決定、あるいはFIT/FIPからの卒業(卒FIT)を検討するフェーズです。
【重要】フェーズ5の位置付け:「卒FIT」と呼ばれる電力会社との契約切替は、通常、官公署に対する申請・届出ではありません。電力会社は原則として官公署に当たらないため、電力会社に提出する契約切替書類は、それ自体としては行政書士の独占業務ではありません。
5-1. FITからFIPへの移行申請
- FIT/FIP移行申請:一定の要件のもと、FIT認定からFIP認定への移行を選択できる場合があります。提出先:資源エネルギー庁。
5-2. 買取期間満了に伴う電力会社との手続き
- 電力会社との契約切替・継続手続き:新たな売電先(継続契約、新電力会社との契約、自家消費への切替え、蓄電池との併用など)の選択に伴う契約手続き。
5-3. このフェーズで行政書士業務に該当し得る手続き
フェーズ5では、行政書士業務に該当し得るものと該当しにくいものが混在します。
行政書士業務に該当し得るもの
- FITからFIPへの移行申請書の作成、および申請手続の代理:資源エネルギー庁への申請書類のため、独占業務の対象となり得ます。
行政書士の独占業務とは断定しにくいもの
電力会社との売電契約の切替え等は、通常、官公署に対する申請・届出ではありません。契約書その他の権利義務に関する書類の作成に該当する場合は行政書士業務となり得ますが、定型的な契約申込みや入力補助を含め、個別の業務内容に応じた判断が必要です。
【フェーズ6】事業廃止・設備撤去フェーズ
FIT/FIP期間の途中で事業を廃止する場合、あるいは買取期間終了後に事業を廃止・撤去する場合のフェーズです。事業のライフサイクルの終着点にあたるフェーズで、資源エネルギー庁への廃止関係手続きに加え、電気事業法上の手続き、原状回復に関する手続き、廃棄物処理に関する手続き等、多岐にわたる書類が発生します。
6-1. 資源エネルギー庁への廃止関係手続き
- 再生可能エネルギー発電事業計画廃止届出書
- 再生可能エネルギー発電設備解体等完了確認申請書
- 廃棄・撤去に関する関係法令手続状況報告書
6-2. 電気事業法上の廃止関係手続き
- 自家用電気工作物廃止報告
- 保安規程廃止関係届出
- 主任技術者解任届出
6-3. 自治体・関係法令に基づく廃止・撤去手続き
- 自治体条例に基づく廃止・撤去完了届
- 林地・農地・造成地の原状回復に関する届出
- 産業廃棄物の処理委託契約書、マニフェスト、保管基準対応、自治体条例上の届出、多量排出事業者に係る処理計画・実施状況報告等
- 土地所有者との原状回復確認書
- 撤去工事に伴う道路使用・道路占用等の申請
6-4. このフェーズで行政書士業務に該当し得る手続き
廃止・撤去フェーズは、記事シリーズを通じて最も見落とされがちなフェーズですが、実務上は多くの手続きが必要となります。
- 再生可能エネルギー発電事業計画廃止届出書の作成
- 再生可能エネルギー発電設備解体等完了確認申請書の作成
- 自家用電気工作物廃止報告書の作成
- 保安規程廃止関係届出書、主任技術者解任届出書の作成
- 自治体条例に基づく廃止・撤去完了届の作成
- 原状回復に関する届出書の作成
- 産業廃棄物の処理委託契約書、自治体条例上の届出、多量排出事業者に係る処理計画・実施状況報告等の書類作成
- 自ら収集運搬業または処分業を営む場合に必要となる産業廃棄物処理業の許可申請書類の作成(通常の発電事業廃止では発生しないことが多い)
- 撤去工事に伴う道路使用・道路占用許可申請書の作成
- 土地所有者との原状回復確認書等の権利義務に関する書類の作成(紛争性がない場合)
フェーズ横断でのまとめ ― 3つの分類
上記のフェーズ別の手続きを、業務の性質に応じて3つに分類すると、業務分担の整理がしやすくなります。
① 行政書士業務に該当する可能性が高いもの
- 官公署に提出する申請書・届出書・報告書の作成
- その添付用の事実証明書類・権利義務書類の作成
- 申請手続の代理
② 他資格者・技術者との連携が必要なもの
- 電気技術図面・計算書 → 業務内容に応じて電気主任技術者、電気管理技術者、電気保安法人、設計者、施工業者等と連携
- 保安規程の技術的内容 → 電気主任技術者・電気管理技術者・電気保安法人
- 建築設計図書 → 建築士
- 測量図・境界関係図面 → 内容に応じて測量士・土地家屋調査士等
- 登記申請書類 → 司法書士
- 税務申告 → 税理士
- 紛争・法律交渉 → 弁護士
③ 原則として行政書士の独占業務とはいえないもの
- 系統連系協議そのもの(民民の技術協議)
- 電力会社との売電契約交渉
- 工事施工、保守点検の実施
- 使用前自己確認・自主検査の技術的実施
- 発電量・費用データの集計
- 事業者本人が作成した内容の単純入力
- 電力会社への定型的な契約切替申込み
こんなケースは要注意
次のような業務運営を行っている場合、改正行政書士法との関係を早急に確認することをおすすめします。
- 販売施工会社が申請書作成を行う:太陽光パネルの販売・施工に付随して、事業者に代わってFIT認定申請書を作成し、その対価を「工事一式」等の名目で受領しているケース。
- コンサル会社が「登録代行」を提供:太陽光事業のコンサルティングとして、認定申請の代行業務をパッケージ化し、報酬を得て提供しているケース。
- システム会社が申請の実務まで対応
- 定期報告や変更届出も行う:新規申請だけでなく、認定後の変更届出や定期報告について、行政書士以外の事業者が有償で書類を作成しているケース。
いずれのケースでも、業務の実質が、他人の依頼を受け、報酬を得て、業として官公署に提出する書類等を作成するものに該当するかどうかがポイントです。契約書の名目や請求書の記載だけで判断されるものではなく、実質的な業務内容で評価される点に留意が必要です。
事業者・販売施工会社が今すぐ確認すべきこと
- 現行の業務フローの確認
- 契約書・請求書の見直し
- 外部専門家との連携体制の整備
- 委任状様式の更新:2026年1月1日以降の認定申請・変更申請では、資源エネルギー庁公表の新様式を使用。
当事務所のサポート体制
当事務所は、公認会計士事務所であるとともに、行政書士としての登録も受けており、認定経営革新等支援機関としての登録もあります。太陽光発電のFIT/FIP認定申請をはじめとする官公署への申請書類の作成、事業計画の策定支援、そして受給後の会計処理・税務申告まで、一貫してご対応いたします。
特に太陽光発電事業においては、認定申請そのものだけでなく、事業採算のシミュレーション、資金調達の相談、法人化の検討、消費税・所得税・法人税の取扱い、事業承継の検討、そして事業廃止時の手続きまで、会計・税務と行政手続を横断する論点が多岐にわたります。窓口を分散させずに一貫してご相談いただけることが、当事務所の強みです。
「これまで自社で行っていた申請業務をどう見直せばよいか」「販売施工会社として、法改正後の業務体制をどう整えるか」「太陽光発電事業の採算と税務を総合的に相談したい」「事業廃止・撤去の手続きを検討したい」――こうしたご相談は、どうぞお気軽にお寄せください。
なお、補助金や事業承継の活用については、本ブログの「経営改善計画策定支援事業(405事業)とは」、「事業承継・M&A補助金とは」、「補助金の落とし穴」でも解説していますので、あわせてご参照ください。
※本記事は2026年時点で公表されている情報に基づいて作成しています。改正行政書士法の解釈・運用や、FIT/FIP認定申請の実務は、今後の運用の蓄積により変わり得ます。また、記載した各種手続きの要否・内容・提出書類・行政書士業務の該当性は、事業内容・設置場所・規模等により異なります。実際の対応にあたっては、必ず資源エネルギー庁・関連機関または当事務所までご確認・ご相談ください。