はじめに
年末調整シーズンが近づくと、毎年同じような質問が会計事務所に寄せられます。「共働きだが、子どもの扶養はどちらに付ければよいか」「海外勤務中の親は扶養に入れられるか」「定額減税との関係はどうか」など、判定に迷うケースが少なくありません。
本稿では、扶養控除等申告書の記載で迷いやすい論点を、実務的な観点から整理します。
論点1:共働き家庭での扶養判定
共働き家庭において、子どもをどちらの親の扶養に入れるかは、税法上「どちらでも可能」が原則です(所得税法第85条第3項)。
有利不利の判断
基本的には所得が多い方の扶養に入れる方が、税額計算上有利です。所得税は累進課税のため、高所得側で控除を取った方が、控除額×税率の効果が大きくなるためです。
ただし、住民税の扶養控除は、所得税の控除と同じ親に紐付きます。また、健康保険の扶養と税法上の扶養は別物であり、健康保険上は別の親の扶養に入れることも可能です。
年の途中での変更
年末時点でいずれか一方の扶養とする必要があり、同一年度内で二重に控除を受けることはできません。
論点2:海外勤務者の扶養親族
国外居住親族については、令和5年1月から判定基準が大幅に変わりました。30歳以上70歳未満の国外居住親族については、原則として扶養控除の対象外となっています。
国外居住親族の要件
国外居住親族を扶養親族として控除を受けるためには、以下のいずれかに該当する必要があります(所得税法第2条第1項第34号)。
- 16歳以上30歳未満、または70歳以上
- 30歳以上70歳未満で、留学のため国内に住所を有しなくなった者
- 30歳以上70歳未満で、障害者
- 30歳以上70歳未満で、年38万円以上の生活費等の送金を受けている者
送金関係書類の重要性
国外居住親族について控除を受ける場合、「親族関係書類」と「送金関係書類」の提出または提示が必要です。送金関係書類は、その年における合計38万円以上の送金が確認できる書類が求められます。
論点3:障害者控除の判定
障害者控除は、本人または同一生計の配偶者・扶養親族が障害者である場合に適用されます(所得税法第79条)。
障害者の認定
税法上の障害者の判定は、以下のような書類で行います。
- 身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の交付を受けている者
- 市区町村長から認定を受けている者(要介護認定とは異なる)
- 成年被後見人
特に注意が必要なのは、「要介護認定」と「障害者の認定」は別物だという点です。要介護認定を受けていても、自動的に税法上の障害者にはなりません。市区町村長による「障害者」または「特別障害者」の認定を別途受ける必要があります。
論点4:定額減税との関係
令和6年から始まった定額減税は、令和7年以降は通常の所得税の中に組み込まれる形となりますが、年末調整実務上は引き続き注意が必要です。
扶養親族の定額減税
定額減税の対象となる扶養親族は、所得税の扶養親族と同じです。ただし、月次減税時点と年末時点で扶養親族数が変わった場合、年末調整で調整計算が必要となります。
実務上の留意点
- 共働き家庭の扶養判定は、年初に方針を決めて、年中での変更は原則行わない
- 国外居住親族の送金関係書類は、年38万円以上の送金実績を確認する
- 障害者控除は、税法上の認定基準を確認し、要介護認定との混同を避ける
- 扶養控除等申告書の記載内容について、社員に変更の有無を毎年確認する
塩野公認会計士事務所の見解
年末調整は会社の経理担当者が実施することが多いですが、判定に迷うケースは社員から専門家への相談を促す体制づくりが重要です。誤った判定で控除を取ってしまうと、税務調査で発見された際に追徴課税が発生し、社員と会社の双方に不利益が及びます。
当事務所では、年末調整の実務サポートに加え、社員向けの相談窓口としてのサービスも提供しております。判定に迷うケースについて、お気軽にご相談ください。
※ 本記事は執筆時点の法令・通達等に基づき作成しております。最新の制度や個別事情により取扱いが異なる場合がありますので、実務への適用にあたっては最新情報をご確認ください。ご不明点があればお気軽にご相談ください。