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令和8年度税制改正 - 実務対応が必要となる主なポイント

はじめに

令和8年度税制改正のうち、令和8年以降に実務対応が必要となる主な項目を整理します。所得税の基礎控除等の見直しから、消費税のインボイス制度の経過措置変更、新たに導入された防衛特別法人税まで、実務影響の大きい項目が複数含まれています。

本稿では、中小企業や個人事業主への影響が大きい改正項目をピックアップし、実務対応で押さえるべきポイントを整理します。なお、各項目の適用時期は項目によって異なりますので、ご注意ください。

1. 所得税:基礎控除等の見直し

物価上昇への対応として、所得税の基礎控除等が見直されました。いわゆる「年収の壁」への対応も含め、給与所得者等の課税最低限が見直される形となります。

基礎控除の引上げ

基礎控除は、原則として4万円引き上げられました(58万円 → 62万円)。さらに、令和8年分・令和9年分については、所得に応じた加算措置が設けられている点が特徴です。

  • 基礎控除:原則 58万円 → 62万円(4万円引上げ)
  • 令和8年分・令和9年分は、一定所得以下の方に加算措置あり
  • 給与所得控除の最低保障額も併せて引上げ

所得階層によって実際の控除額が変わる仕組みとなっているため、年末調整・確定申告の際には、本人の所得水準に応じた正確な計算が必要です。

実務への影響

この改正は、給与計算実務にダイレクトに影響します。

  • パート・アルバイトの扶養調整に影響:従来の「103万円」を意識した働き方の見直しが必要となるケースがあります
  • 年末調整・源泉徴収の設定変更:給与計算ソフトの設定を新しい控除額に変更する必要があります
  • 給与システムの改修:基幹業務システムを使用している場合、ベンダー対応のアップデートが必要となる可能性があります

特に、パートタイマーを多く雇用している小売業・飲食業・サービス業では、「年収の壁」を意識した働き方の調整が現場で起きています。シフト調整や賃金設計の見直しが必要となる場合がありますので、早めに方針を固めることをおすすめします。

参考:

2. インボイス制度:経過措置の大幅見直し(最重要)

今回の改正で最も実務影響が大きいのが、インボイス制度の経過措置の見直しです。中小企業・個人事業主の双方に影響が及びますので、特に注意が必要です。

(1) 2割特例 →「3割特例」へ変更

インボイス制度導入時から設けられている「2割特例」について、従来は令和8年9月で終了する予定でしたが、改正で形を変えて延長されることとなりました。

現行制度(2割特例):

  • 売上にかかる消費税の20%だけを納税
  • 免税事業者からインボイス発行事業者になった個人事業主・中小企業が対象

改正後(3割特例):

  • 売上にかかる消費税の30%を納税
  • 対象は個人事業主に限定
  • 令和9年分・令和10年分の消費税申告に限り適用

なお、3割特例の適用には、個人事業者であること、適格請求書発行事業者であること、課税売上高等の要件を満たすことが必要です。

つまり、納税負担は2割から3割へと増えるものの、当初予定されていた完全終了は回避され、個人事業主向けに2年間の経過措置が新設されたことになります。フリーランスや個人事業主にとっては、急激な負担増を避けられる改正と言えます。

(2) 免税事業者からの仕入控除:段階的縮小に変更

こちらは買い手側(課税事業者)の論点です。免税事業者からの仕入れに係る経過措置について、当初の予定から大きく見直されました。

当初の予定では「令和8年10月から控除割合が80%から50%に急減」とされていましたが、改正により段階的に縮小される形となりました。

改正後のスケジュール:

  • 令和8年10月〜令和10年9月:70%控除
  • 令和10年10月〜令和12年9月:50%控除
  • 令和12年10月〜令和13年9月:30%控除

当初の急減スケジュールから、より緩やかな縮小スケジュールに変更された形です。買い手側のコスト増のショックを和らげる一方、最終的な縮小の方向性は変わっていません。

実務への影響

この改正は、特に以下の業種で影響が大きくなります。

  • 建設業:一人親方・職人との取引が多く、免税事業者からの仕入れが日常的
  • 運送業:個人ドライバーとの委託契約が多い
  • デザイン・IT業界:フリーランスとの業務委託が中心
  • 飲食業:個人農家・小規模生産者からの仕入れがある場合

免税事業者との取引が売上原価の20%を占める会社の場合、控除割合が70%・50%・30%と段階的に下がっていくことで、年々のコスト増が積み重なっていきます

段階的縮小に変更されたとはいえ、最終的に控除額が30%まで下がることには変わりありません。請求書の管理体制、取引先との契約見直し、価格交渉のタイミングなどを計画的に進める必要があります。

参考:

3. 防衛特別法人税の導入

令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、防衛財源確保を目的とした「防衛特別法人税」が導入されました。法人税額を基礎に課税される、付加税方式の新しい税目です。

制度概要

計算式は、概ね以下のとおりです。

防衛特別法人税 = (基準法人税額 − 年500万円)× 4%

  • 基準法人税額から年500万円の基礎控除額を控除した金額に、4%の税率を乗じて計算
  • 基礎控除額(年500万円)が設けられているため、利益規模が小さい中小企業への影響は限定的
  • 適用開始は令和8年4月1日以後開始事業年度から
  • 一定の場合には、防衛特別法人税の申告対応が必要となる点にも注意が必要です

影響を受ける可能性が高い法人

基礎控除額(年500万円)の存在により、法人税額が一定規模以下の中小企業では、実質的な課税が生じない、または影響が小さくなるケースがあります。一方、以下に該当する法人は税負担が増える可能性があります。

  • 利益が大きく、基準法人税額が500万円を大きく超える法人
  • グループ通算制度を適用している企業グループ(500万円の基礎控除をグループ全体で按分)
  • 年間の所得が一定額を超える高利益会社

自社の法人税額の見込みを踏まえ、決算予測の段階で防衛特別法人税の試算をしておくことをおすすめします。特に、利益が大きく出る見込みの会社は、納税資金の確保も含めた対応が必要です。

参考:

4. 賃上げ促進税制の見直し

従業員の給与増額を促進するための税額控除制度である「賃上げ促進税制」について、令和8年度改正で大幅な見直しが行われました。

主な改正内容

  • 大企業向け措置:令和8年3月31日をもって廃止
  • 中堅企業(従業員2,000人以下)向け措置:令和9年3月31日をもって廃止
  • 中小企業向け措置:継続するものの、教育訓練費による上乗せ措置の廃止

実務上のポイント

中小企業向けの賃上げ促進税制は、制度自体が継続されますが、これまで活用されてきた「教育訓練費による上乗せ措置」については廃止される点に注意が必要です。

「使えると思っていたら、上乗せ措置がなくなっていた」という事態を避けるため、適用前の事前確認が一層重要になります。

  • 自社が中小企業者等に該当するかの再確認
  • 賃上げ率の計算基準(継続雇用者の判定など)の確認
  • 教育訓練費の上乗せ措置を前提とした節税計画の見直し

参考:

5. 設備投資税制の見直し

中小企業の設備投資を支援する税制について、令和8年度改正でも各種の見直しが行われています。

主な見直し項目

  • 少額減価償却資産制度や中小企業向け投資促進税制について、見直し・延長等が行われています
  • 研究開発税制の拡充
  • 「強い経済」の実現に向けた新たな投資減税制度の創設等

実務への活用

設備投資のタイミングと金額をうまくコントロールすることで、節税効果を最大化できる場合があります。具体的な制度内容は変更が多い領域ですので、設備投資を計画されている場合は、最新の制度内容をご確認の上、適用の可否を検討することが重要です。

特に、デジタル化・DX関連の投資については、複数の支援策が存在します。クラウドシステムの導入、業務自動化ツールの導入等についても、制度によっては対象となる可能性があります。IT投資を検討中の会社は、税制活用の観点も含めた検討をおすすめします。

参考:

実務対応のポイント整理

ここまでお伝えした令和8年度税制改正の中で、特に実務で対応が必要な項目を整理すると、以下のとおりです。

  • 【最優先】給与計算ソフト・年末調整資料の改正対応バージョンへのアップデート
  • 【最優先】令和8年10月からのインボイス経過措置縮小(70%控除へ)に向けた取引先確認
  • 【決算前後で確認】防衛特別法人税の試算〔(基準法人税額 − 年500万円)× 4%〕と納税資金の確保
  • 【投資検討時】賃上げ促進税制の見直し内容(教育訓練費上乗せ措置の廃止等)の確認
  • 【投資検討時】設備投資関連の税制活用の検討

塩野公認会計士事務所の見解

令和8年度税制改正は、所得税・法人税・消費税のいずれにも実務影響のある項目が含まれた、近年でも比較的大きな改正となりました。特にインボイス制度の経過措置見直しは、当初の急減スケジュールから段階的縮小へと変更され、関係事業者にとっては息継ぎの期間が確保された形です。

ただし、3割特例にしても段階的縮小にしても、最終的な負担増の方向性は変わりません。「今は負担が軽いから」と対応を先送りにすると、数年後に手遅れになるリスクがあります。改正の意図を正しく理解し、計画的に対応することが何より重要です。

当事務所では、お客様の業種・規模に応じた改正影響度の分析と、実務対応のご提案を行っております。ご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。

※ 本記事は執筆時点の法令・通達等に基づき作成しております。最新の制度や個別事情により取扱いが異なる場合がありますので、実務への適用にあたっては最新情報をご確認ください。ご不明点があればお気軽にご相談ください。