はじめに
確定申告の準備が本格化する時期になりました。個人事業主にとって、青色申告特別控除65万円は最も基本的かつ重要な節税策です。しかし、「複式簿記で記帳している」だけでは65万円控除は受けられないことをご存じでしょうか。
本稿では、青色申告特別控除65万円を確実に受けるための要件と、見落とされやすいポイントを整理します。
論点1:青色申告特別控除の3つの段階
青色申告特別控除には、控除額に応じて3つの段階があります(租税特別措置法第25条の2)。
- 10万円控除:単式簿記による記帳
- 55万円控除:複式簿記による記帳+貸借対照表・損益計算書の添付
- 65万円控除:上記55万円控除の要件に加え、e-Tax申告または優良な電子帳簿保存
65万円控除の追加要件
令和2年分から、65万円控除を受けるためには、以下のいずれかが必要となりました。
- e-Taxによる電子申告(マイナンバーカードによる電子署名付き)
- 優良な電子帳簿の電磁的記録による保存(事前届出が必要)
単に「複式簿記で記帳している」「青色申告ソフトで申告している」だけでは、65万円控除は受けられません。実際に税務署に提出する申告書を、e-Taxで送信する必要があります。
論点2:e-Tax申告の実務
e-Tax申告には、以下の準備が必要です。
必要なもの
- マイナンバーカード(電子証明書)
- ICカードリーダーまたはマイナンバーカード対応スマートフォン
- e-Taxの利用者識別番号(事前にe-Taxホームページで取得)
申告ソフトとの連携
市販の青色申告ソフト(弥生会計、freee、マネーフォワード等)の多くは、e-Tax連携機能を備えています。ただし、ソフトの初期設定で「e-Tax連携」を有効にしていない場合があるので、確認が必要です。
会計ソフトで申告書を作成しても、最終的にe-Taxで送信しなければ65万円控除は受けられない
論点3:複式簿記の要件
複式簿記による記帳は、青色申告特別控除55万円・65万円の前提条件です。具体的には、以下の帳簿を備える必要があります。
- 仕訳帳(または振替伝票)
- 総勘定元帳
- 現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳、固定資産台帳など補助簿
貸借対照表の作成
複式簿記の最大のポイントは、貸借対照表を作成することです。期首・期末の貸借対照表を作成し、申告書に添付する必要があります。
会計ソフトを使えば自動的に作成されますが、開業初年度の場合、開業時の財産(現金、預金、固定資産等)を「事業主借」「事業主貸」を使って正しく記帳できているかが論点となります。
論点4:優良な電子帳簿の選択
e-Tax申告ではなく、「優良な電子帳簿」を選択する方法もあります。ただし、こちらは事前届出と要件充足が必要であり、中小規模の個人事業主にはハードルが高いケースが多いです。
実務上、ほとんどのケースでe-Tax申告を選択する方が現実的です。
実務上の留意点
- マイナンバーカードと電子証明書の有効期限を確認する(5年で更新が必要)
- 会計ソフトで「e-Tax連携」を有効化する
- 申告書を税務署に郵送・持参で提出すると、自動的に55万円控除に減額される
- 複式簿記の記帳は、開業時点から正確に行う(期中で開始すると期首簿価の整合性が取れない)
塩野公認会計士事務所の見解
青色申告特別控除65万円は、所得税・住民税・国民健康保険料の3つに影響する効果の大きな控除です。所得税率20%・住民税10%・国民健康保険料10%程度と仮定すると、65万円控除と10万円控除の差55万円について、約22万円の節税効果があります。
「e-Taxの設定が面倒」という理由で55万円控除に甘んじているケースを見かけますが、一度設定すれば翌年以降も継続して使えますので、年初の設定を強くおすすめします。当事務所では、e-Tax設定のサポートも行っております。
※ 本記事は執筆時点の法令・通達等に基づき作成しております。最新の制度や個別事情により取扱いが異なる場合がありますので、実務への適用にあたっては最新情報をご確認ください。ご不明点があればお気軽にご相談ください。