はじめに
国税庁の事務年度は7月1日から翌年6月30日までです。新事務年度の開始とともに、税務調査も本格的に動き出します。中でも7月~11月は調査のピーク時期であり、多くの会社・個人事業主が調査の連絡を受けることになります。
本稿では、税務調査において調査官が重点的にチェックするポイントを、売上計上時期、外注費と給与の区分、役員給与の3つの観点から整理します。
論点1:売上計上時期
売上の計上時期は、税務調査において最も基本的かつ重要な論点です。法人税法第22条の2で「資産の販売等に係る収益の額は、目的物の引渡しまたは役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する」とされています。
期末付近の取引
特に注意が必要なのは、期末付近の取引です。請求書の日付ではなく、引渡しまたは役務提供の完了日を基準に判定する必要があります。
例えば、5月決算法人で、5月25日に役務提供が完了し、6月1日に請求書を発行した場合、収益の計上は5月(前期)となります。請求書を発行した6月(当期)に計上することは、税務調査で否認されるリスクが高い処理です。
収益認識基準の影響
令和3年4月以降開始する事業年度から、収益認識に関する会計基準が法人税法上も基本的に適用されています(法人税法第22条の2第1項)。
従来の「実現主義」から、「履行義務の充足時点」での収益認識へと変わったことで、特に長期請負契約や複数の履行義務を含む契約については、より精緻な収益計上タイミングの管理が求められます。
論点2:外注費と給与の区分
「外注費」として処理されているものが、税務調査で「給与」と認定されるケースは少なくありません。給与認定された場合、源泉所得税の追徴と消費税の仕入税額控除の否認という二重のダメージが発生します。
判定基準
国税庁の公表資料や判例においては、以下の要素を総合的に判断するとされています。
- 他人が代替して業務を遂行することが認められるか
- 報酬の支払者から作業時間を指定されるなど、時間的拘束を受けているか
- 作業の具体的な内容や方法について指揮監督を受けているか
- 引渡し未了の完成品が不可抗力で滅失した場合、報酬の請求権があるか
- 材料、用具を支払者から供与されているか
いわゆる「一人親方」や「業務委託契約のフリーランス」を活用している会社は、契約書の整備だけでなく、実態としての独立性を確保することが重要です。
論点3:役員給与
役員給与は、法人税法上、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しない限り、損金算入が認められません(法人税法第34条)。
定期同額給与の論点
定期同額給与は、毎月同額の支給が原則です。期中での増額・減額は、原則として認められません。例外として、職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情がある場合に限り、改定が認められます(法人税法施行令第69条第1項)。
「業績悪化による減額」については、客観的な業績悪化の事実が必要であり、単なる「資金繰りが苦しいから」という理由では認められないので注意が必要です。
事前確定届出給与の論点
事前確定届出給与は、株主総会等で決議し、所定の届出期限までに税務署に届出書を提出する必要があります。届出と異なる金額・時期での支給は、原則として全額が損金不算入となります。
「届出より少ない額を支給した」場合も、原則として全額否認となる点に注意が必要です。年度途中で業績が悪化しても、届出通りに支給するか、まったく支給しないかの2択となります。
実務上の留意点
- 売上の計上時期について、「いつ役務提供が完了したか」「いつ引渡しが完了したか」を客観的に示す書類(納品書、検収書等)を整備する
- 外注先との契約書には、業務の独立性を示す条項(代替性、時間的拘束の不存在等)を盛り込む
- 役員給与の改定は、株主総会議事録に「改定の理由」を明確に記載する
- 事前確定届出給与は、業績連動的な要素を排除し、確定額・確定時期での支給を遵守する
塩野公認会計士事務所の見解
税務調査で問題を指摘されないためには、「日常の経理処理の段階で、税務調査を意識した対応をしている」ことが何よりも重要です。事後的に書類を整えても、調査官には実態が見えてしまいます。
特に、外注費と給与の区分や、役員給与の改定理由については、平時から意識して書類を整えることをおすすめします。当事務所では、税務調査対応はもちろん、平時からの予防的なアドバイスに力を入れております。
※ 本記事は執筆時点の法令・通達等に基づき作成しております。最新の制度や個別事情により取扱いが異なる場合がありますので、実務への適用にあたっては最新情報をご確認ください。ご不明点があればお気軽にご相談ください。